360度VR(バーチャルリアリティー=仮想現実)動画を使ったニュースサイト「TOHOKU360(サンロクゼロ)」が2月25日、オープンした。運営はTHE EAST TIMES(仙台市若林区六丁の目中町)。
同サイト編集長の安藤歩美さんは、全国紙の記者として東日本大震災後の東北を取材する中、さらに掘り下げた取材を行いたいと独立。東京大学大学院の先輩で全国紙の校閲を務め、前職ではビッグデータ分析などを行っていた中野宏一さんと共にTHE EAST TIMESを立ち上げた。
新聞社での勤務経験を通じ、地方には世界に通用するようなニュースが数多くあるにもかかわらず、ほとんど地域面にしか載っていないこと、一方でそうした話題がネットでは大きな反響を得ている現象を見ていた2人は「地域や友達の間だけで消費されているのがもったいないと感じた」という。
「取材や執筆など新聞が持つ『ニュースをつくる力』をインターネットの拡散力と掛け合わせることで地方の小さな話題を全国に広められるはずだと考えた」とも。手始めにヤフー子会社のワードリーフが運営するニュースサイト「THE PAGE」に寄稿を始めると、仙台市天文台が販売している地球の姿を模した「アースキャンディー」や、青森県の形をしたパンの袋留めを地元の大学生が自作したことなどの記事がネットで爆発的に話題となり、仮説が正しかったことを実感できたという。
「インターネットがいかに発達しても必ず残るニュースの価値は、記者が現場に行って見聞きしてきた、検索しても出てこない情報」と中野さん。安藤さんは「それをどうすればもっと普遍的なテーマにできるのか、自分の問題として興味を持ってもらえるかを試行錯誤し、写真や動画も活用してきたが、もっと現場の様子を伝えられる手段があるのではという思いがあった」と話す。
そうした中、昨年ごろからニューヨークタイムズなど海外のメディアが導入を始めた360度動画に着目。「報道の在り方、概念を変える、インターネットでしかできない表現」に可能性を感じ、自社媒体として「TOHOKU360」を立ち上げた。360度動画に特化したニュースサイトは日本初で、「世界でも例がないのでは」と中野さん。
ニュースを伝える動画の再生中にユーザーが操作することで、360度を見渡すことができるのが特長。現在公開されている記事では、被災地の現状や東北の自然、イベント会場の様子など、写真や文字では伝え切れない現場の状況が視覚的に伝わってくる。
サイト名の通り、まずは東北の話題を提供していくが、全国にも隠れた魅力があると確信している。東京から垂直的に情報が流れる旧来的な構造から、インターネットで地方から全国へ直接話題を届けることが可能になった今、「現場主義を貫き、新たな技術を用い、ネットでしかできない手法で各地の知られていない面白いものを発信していきたい」と、2人は目を輝かせる。