
2025年の日本建築学会賞が4月21日に発表され、石巻市北村の「山麓堂」を手がけた仙台在住の1級建築士、太田健裕さんが「作品選集新人賞」を受賞した。
日本建築学会「作品選集新人賞」を受賞した「太田設計舎」の太田さん
1986(昭和61)年生まれ、石巻市出身の太田さんは東京の建築事務所を経て2019年、宮城にUターンし「太田設計舎」を立ち上げ独立。現在は仙台と都内を拠点に事業を展開している。
同賞は、日本建築学会発行の作品選集掲載作品から40歳未満の筆頭設計者を表彰する。受賞対象作品の「山麓堂」が建てられた場所には、過疎化の進む同地域で700坪ほどの土地に母屋、倉庫、蔵、小屋が点在していた。長く空き家状態となっており、そのままの状態で相続することは避けたいと考えた依頼主の60代夫婦から、週末住宅として利用しながらも集会所のように親戚や友人、近隣住民が集い、共に収穫作業や催しを行える場所にしたいという希望を受けた。
既存利用も含めた可能性を検証した上で、農作業時に使う井戸小屋のみを残して取り壊し、25坪の小さな平屋を新築した。リビングを中心に、屋根の下の半分以上を土間や半外部空間で構成。ガラス引き戸と格子ガラス引き戸の2層の建具で仕切り、使い方に合わせて柔軟に場を作れるようにした。
背にする山の稜線(りょうせん)に沿って緩やかなカーブを描いた屋根も特徴で、シルバーで塗装された天井はその傾斜によって室内に周辺の光景を取り込む。「周辺の緑や、農作業をしているとブルーシートの色や取れた作物の色がぼんやりと反射して、軒先で起こっていることが室内に取り込まれる」と太田さん。
作品選集の選評では、限られたスペースに施主の要望を組み込んだ平面構成と3次元的にも無駄のない空間構成、2重のガラス戸によりさまざまな空間が作り出せる構造に加え、空調についても「コンパクトな内部空間を対象に計画しており、開放的ながらも、究極の省エネルギー建築を実現している」と評価された。
「省エネ建築といえば東北地方では高断熱、高気密が一般的だが、土間空間を空気層として断熱効果を持たせ、居住域の最小限部分のみを空調コントロールして、低気密で省エネルギーを実現した。その点を評価していただけたのはうれしい」と太田さん。
「高齢化社会や空き家、相続問題など、全国で抱えるさまざまな社会問題について、建築で解決できることをこれからも宮城から発信し、地域を元気づけていきたい」と意気込む。